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(左)オイカワ (右)ウグイ
10年ほど前のことだろうか。ゴールデンウィークに田舎に帰り、釣りをした。
狙いはヤマベ(オイカワ)とハヤ(ウグイ)である。少々自慢話になるが、今でも忘れられないので筆をとる事にする。
私の故郷は近くに幾筋もの川や山があり、父に連れられ、またあるときは1人で何度も渓流および中流域の釣りを楽しんだ。
父は本当に釣りキチであり研究熱心であった。自作の道具は数知れず、天気の悪い休日は風呂に仕掛けを浮かべて何やらやっていた。
釣場に着いても釣り方は教えてはくれず、自分の釣りを見て盗めと言う。
釣果はいつも決まって、私は父の半分だった。父と同じ仕掛けで釣っているのだから、その違いは技術と精神そして経験である。悔しくて、1人で出かけては腕を磨いた。
父の体力も衰え、私の釣果が上回ることも出てきたころ、父は他界した。
その翌年のゴールデンウィークであった。父との思い出の川に私は立っていた。
連休とあって釣り人も多く、川原では家族連れがバーベキューをしていた。
昼食を摂ったあとに出かけたので、私のお気に入りのポイントには既に人がいた。
釣りは自然が相手である。魚がいないところで竿を出しても釣れない。まずはポイント選びから始まるのだ。
川は一雨ごとにその相を変え、魚のつくポイントも変化する。もちろん、季節や天気、水温、時間帯などの様々な条件によっても変わる。
それを見極めるには経験を積むしか無い。
先客の1人1人に「こんにちは。どうですか。釣れてますか?」と聞いてまわった。
みな釣れていないようである。少ない人で3匹、多くても5匹程度であった。エサは最も有利な現地で捕った川虫を使っているようだった。
私は出発が遅かったしエサを捕る時間がおしいので、釣具屋でサシ(ハエの幼虫)を買って来て、それを使った。
1投目で1匹のヤマベを釣り上げた。一斉に他の釣り人がこちらを見ている。
2投目で2匹目を釣った。3投目で3匹。
釣り人は元来、負けず嫌いである。こうなると黙っていられない。
1人が近づいて来て、私の目の前に仕掛けを投げた。私の前に群れがいるのだと思ったようだ。
しかし、釣れない。私はその人から離れて釣りを再開した。そして、また1匹、2匹・・・。
また近づいて来て、私の目の前に仕掛けを投げ込む。でも釣れない。
ついに、話しかけて来た。「あんちゃん、よく釣るね~。エサは何を使ってるんだい?」
サシだと答えると、少し分けてくれと言う。サシはエサ持ちが良く、1匹のエサで5匹くらいは釣れる。だが、白くて目立つ上に泳がないので食いは悪い。
ケチっても仕方ないので、5匹ほど分けてあげた。
しかし、1匹も釣れない・・・。
いたたまれなくなったのか、その人は無言で竿をたたみ、帰ってしまった。
気が付けば、周りには誰もいなくなっていた。みんな釣れなかったようである。
雑魚釣りといえども、釣りは難しい。だからこそ夢中になるし、精進するのだ。
この日のように1人だけバカ釣りすると、もう心の中はニタニタ笑っている。
釣れなかった人達の釣りも観察したが、あれではいくら川虫を使っていてもダメである。
いかにエサを自然に流すか。そして、それでも釣れなければ、エサが少しだけ逃げるような動きを演出する。
それさえできれば、サシなどという見た事も無いようなエサでも、ヤツラは食ってくるのだ。
しかし、食ってきてもそれが判らないのでは話にならない。魚にエサを与えに来たようなものだ。
どんなアタリでも敏感に判る仕掛けと、それをアタリが出るように流す技術が必要だ。
私はそれを、父の釣りを見て吸収した。ときには自分なりの工夫も加えて。
その日の釣果は、先客達が5匹程度だったのに対して、私は216匹であった。
少々、自慢と講釈が長くなってしまった。
やがて日が傾き、絶好の時間帯を迎えた。いわゆる夕まずめである。
魚本来の食事タイムであり、エサの水生昆虫が流れて来たり羽化する時間でもある。このときは魚の活性が急激に上がり、普段はなかなか釣れない大物の警戒心が緩むときだ。
私は神経を研ぎ澄まし、その時を待った。
そして、わずかにウキの流れる速さが遅くなった。神経質な大物特有のアタリである。バックしながらエサを食っているのだ。
神経質で警戒心が強かったからこそ、そこまで大きく育ったのであろう。
すかさずアワセをくれる。竿がギューンとしなる。その川では今まで経験したことの無い重さである。
やがて魚は走りだし、竿先が水面近くまで突き刺さる。
私は必死に耐えた。細仕掛けなので、無理すれば簡単に糸が切れてしまう。
20分ほど粘ったであろうか。やっと魚が寄って来た。
大きな褐色の魚体が見えてきた。ゆうに40cmほどはある。コイかと思ったが、顔を見たら違っていた。
私の勝利も間近だと思われたが、魚は本気ではなかった。
顔を見られた魚は猛然とダッシュし、深い荒瀬へと走って行く。
私はなりふり構わず川の中に入って、魚と一緒に走った。
しかし、水の中では魚の方に分がある。あっと言う間に竿はのされ、糸は空しく切れた。
もう辺りは薄暗く、日は落ちていた。呆然と川にたたずんだまま時間が過ぎて行く。
足と手はまだ少し震えている。
ヤツは何だったのか。コイではない事は顔で判ったが、薄暗くて魚体は確認できなかった。
その日はそれで諦めて帰ることにした。
次の年、またヤツがいた場所にやって来た。今度こそ仕留めてやる。
だが、前年の台風で川の相が変わり、そこは深さ10cmほどしか無い浅瀬になっていた。
ヤツはどこだ。無事に生き延びたのだろうか。いや、ヤツなら生きているはずだ。
台風の大水程度で流されるようなら、あそこまで育ちはしない。
あれから数年間ヤツを探し求めたが、とうとう再会できなかった。
生きていろよ。そして、誰にも釣られるな!
投稿者 Munapy : 2006年03月18日 15:26